2018年4月より第5代運営委員長に就任致しました札幌医科大学医学部消化器内科学講座の山野泰穂です。
就任にあたりご挨拶申し上げます。
本研究会は、まだ早期癌の定義が確立されていなかった1960年に消化器医、放射線科医、病理医が一堂に会し発足した「初期癌研究会」に端を発し、1964年より現在の「早期胃癌研究会」に名称を変更し現在に至っています。その運営に関しては、過去においては本研究会の機関誌である「胃と腸」の編集委員会が担っていましたが、2003年より独立した運営委員会が組織され、初代運営委員長・多田正大先生のもとで新たに執り行われるようになり、以後運営委員長は第2代 浜田勉先生、第3代 斉藤裕輔先生、第4代 小山恒男先生と引き継がれてきました。そしてその内容は多くの消化管疾患に携わる皆さまもご存じの通り、徹底した臨床画像所見と病理組織所見の対比であり、消化管診断学の発展・普及・確立に貢献してきた最高峰の症例検討会であります。
私にとって本研究会は、消化管診断学の基本および考え方を学ばせていただいた場であり、初めて参加したときの真剣かつ激しい討議の様子は鮮烈な印象として残っていますし、初期の頃の症例提示やコメントをした際の胸の高鳴りや息苦しい緊張感、さらに諸先輩からの厳しいご指摘にたじろいだことなど、今でも鮮明に覚えています。少し冷静に対応できるようになった近年では、私自身が培った診断学や思考過程を検証・補正する場となり、いまだに学びの場でもあります。このような厳しく緊張感のある本研究会で私自身も2001年に「胃と腸」編集委員、2003年からは運営委員を拝命し運営にも携わって参りましたが、このたび運営委員長として重責を担うこととなり、新たな緊張感で身が引き締まる思いです。
さて、医学も含めた自然科学の分野は様々な事象(症例)を通じて学び、知見や理論、概念を確立してゆく経験学に根ざしております。“ニュートンの万有引力の法則”や“アインシュタインの相対性理論”なども然りです。このポリシーは、高度に発達し細分化された現代の医療環境においても同様であり、未知の領域への挑戦という歩みは永久に止まることはないと考えます。
近年の臨床画像情報は従来のX線二重造影や通常光観察の内視鏡画像だけではなく、image enhanced endoscopy(IEE)の発達による観察光、画像強調処理さらに拡大・超拡大内視鏡画像、ドップラーを含めた超音波内視鏡画像など多岐にわたるようになってきましたし、virtual reality(VR)画像も臨床現場で接する状況になってきました。また病理組織診断においても、HE染色以外のp53や粘液形質など免疫組織化学染色が多用されることで得られる情報や、遺伝子学的解析からもたらされる情報も増えてきました。しかし重要なことは、これら多くの所見や情報を単純に診断に当てはめるのではなく、これらが示すものから病態・機能解明にも迫れるような読影や思考過程が論じられ、もう一度原点に立ち返り通常所見との対応を考え、診断するスタンスであると考えます。
本研究会は一部のエキスパートのための会ではありません。全ての消化管疾患に携わる医師たちのための会であり、明日からの診療に役に立つ知見を得る会でもあります。そして参加されている方々の熱意、情熱の結集が本研究会を発展させる原動力だと信じております。
多くの皆さまのご参集をお願いして、就任の挨拶とさせていただきます。
今後とも何卒よろしくお願い致します。
2018年4月吉日
早期胃癌研究会運営委員長
山野 泰穂