膵Perfusion CTとは

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3.Perfusion CTの撮像

1.撮像条件と被爆

膵臓へのPerfusion CTにおける被曝に関して、人体模型モデルや電子ファントムを用い検討において、80kv,30mA,1.5s/1回転、連続54secでは、被曝線量は63.8mGy(CT Dose Index)であり6、また、この結果は、電子ファントムを用いた検討結果からも確認された(小泉抄録)。通常Dynamic CTは120kv、80kv -200mA で撮像されることが多く、被曝線量は70-80mGy以上である。以上から、Perfusion CTの被曝量は、Dynamic CTのそれと大きくは変わらない。実際に120kvと80kvでの撮像条件の比較では、大きく被ばく線量を減量できることも明瞭に示された7茄子川抄録)。

被曝量の低減は、今後の重要な課題の一つである。しかし、第一回膵Perfusion CT画像研究会で報告されたように、造影剤とContrastという観点から、線量の減量が可能な場合もある。呼吸同期や臓器の移動を補正できれば、必要な撮像枚数は大幅に減少できるので、さらに被曝線量は減量できる可能性もある。今後、腹部Perfusion CTの撮像条件に関する新たな知見が報告されると考えられ、注意深く動向を見守りたい。

2009年末、FDAは、米国において、通常CTの8倍もの被曝線量でperfusion CTを撮像していた施設があったことから勧告を発した。その内容は、

A)過度の放射線被曝が生じないよう評価する。

B)それぞれの施設における被曝線量が適切に設定されていたか見直す。

C)被曝線量の低減に努める。

D)コントロールパネル状に被曝線量が表示されるように設定する。

E)複数の撮像プロトコールを行う場合、それぞれに適切な放射線被ばく量を設定すべきである。

であった。(小泉抄録

本邦では、既に2007年(平成19年)より、厚生労働省難治性膵疾患研究班(下瀬川班)にて、膵Perfusion CTの臨床応用の立場から、安全性について検討が行われてきた8。2009年末のFDAの勧告は2007年(平成19年)からはじまる本邦の取り組みをサポートするものである。

2.撮像範囲と体動補正

現時点で、汎用されている4-64列MDCTの撮像可能範囲(3-4cm、4断面)では、膵を全て収めることができない。そのために、専門医や経験のある技師が、具体的に断面を指定し撮像を行っている場合が多い。この撮像範囲の狭さによって小さな病変の評価が困難になる可能性ある。膵炎の場合、炎症により後腹膜に癒着するので呼吸性変動の影響は少なく、かつ、解析対象の実質は腫大するので、経験的にあまり問題にならない。しかし、膵癌の場合、呼吸性変動の影響は大変大きい。それでいて、1cm大の腫瘍であっても予後や治療戦略に影響する可能性が高く、これを正確に評価することは非常に重要である。

そこで、現在、呼吸性変動をコントロールするために、大きく分けて2つのアプローチがなされている。

一つは、呼吸事体を可能な限り止めて撮像する方法である9。息止めに酸素による補助を行う施設もあると聞く。Maximum Slope法など、撮像に要する時間が短く、かつ、対象臓器の時間濃度勾配の立ち上がりに依存するような解析系では有効である。

もう一つは、息止めをせず、小さく呼吸をしながら長い時間撮像する方法である。10 造影剤のWash outされる様まで解析対象としたい場合、このような方法は有効である。この方法では、クッションを上腹部正中において強めに固定することで、呼吸性変動の大部分をコントロールすることができる。

さて、近年のCTの開発によって撮像範囲の狭さの問題は過去のものとなりそうである。Volume DATAの採取が可能な次世代型の64列CTや、256列、320列といった超多列CTでは、今までの64列CTの撮像可能範囲(3-4cm)を超えて、8-16cmの幅で撮像できる11。これによって膵臓はおそらく全範囲を解析できるだろう。また、呼吸性変動の影響を解析の中で補正できる技術も開発されつつある。以上から、呼吸性変動で吹き飛んでしまうような小さな腫瘍の評価に、超多列化の貢献は大きいと考えら得る。(吉川抄録) しかしながら、超多列CTによるPerfusion画像およびその撮像条件についての報告は少ない。現在およそ70施設(2010年9月現在)にて、超多列CTの撮像が可能となっており、こういった施設からの報告が待ち遠しい。

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3.造影剤

膵Perfusion CTは、4-5ml/秒の注入速度で10秒間造影剤を正中静脈(20-22G)から投与し、対象実質のCT値の変化を観察・時間濃度勾配を作成することから始まる。

A)投与量

造影剤の投与量は、厳密には、患者体重に依存して決定しなればいけない。こういった観点から、我々は、膵Perfusion CTにおける造影剤の投与量を600mgI/Kg以上としている。この造影剤投与量の決定は、Dynamic CTでの経験に基づいているが、まだまだ議論の余地がある。

例えば、この定義では、個人の体重に依存して造影剤量が変わることになる。この結果、“10秒間で投与する”ことを重視した場合、症例によって投与速度は変わってしまう。一方、投与速度(4-5ml/秒)を重視した場合、投与量によっては、10秒間ぴったりで投与できない場合が生じる。

対象組織の造影剤のピークタイムは造影剤投与速度に依存し、ピークタイムはPerfusion 解析に大きく影響する。以上から、造影剤投与速度を一定にすることが大切である。つまり、体重別に造影剤を決定することは重要であるが、その際、投与速度が変遷しないよう注意することが望ましく、我々は投与速度を一定にし(4-5ml/秒)撮像している。

B)濃度

Sahaniらは、造影剤濃度とCT値が比例することを指摘し、高濃度(370mg/ml)の投与を勧めている3。これは、最大CT値をより、大きくすることでClearなTDCを得るための工夫であると考えられる。造影剤の投与速度や投与量は、厳密な定量性を追求する場合、各症例によって検討を行う必要があると考えているが、濃度については、最近はSahaniらと同様に一律に高濃度(350mg/ml以上)の造影剤使用を心がけている。

造影剤によるCT値の上昇は、各CT機器の実効エネルギーに依存する。実効エネルギーが高い場合、X線の透過性が亢進し、造影剤に含まれるヨードの遮蔽効果が損なわれ、結果としてCT値は上昇しにくくなる。12この実効エネルギーは、各CT機器によって異なっている12,13。高濃度造影剤を用いれば、こういったCT機器間の違いを埋める上で有用であると考えられる。(梶谷抄録

C)投与速度

アルゴリズムによっては、造影剤の投与速度が問題になる場合がある。Maximum Slope法の定量性は、後述するように、投与速度に依存する。(村上抄録)文献的には10ml/秒以上必要とする報告や、5ml/秒の投与速度で有意な結果が得られたとする報告もある14。この問題は、アルゴリズムの根底に関する問題であり、重要である。以上から、本法を行う場合、武田先生ら7,9,15が発表されていた様に(武田抄録)(茄子川抄録)、造影剤の投与速度、対象組織及び入力動脈のTDCに注意を払うことが大切である。一定以上(5ml/秒)の投与速度に係わらず、極端に入力動脈の時間濃度勾配が緩やかな場合は、定量性においては慎重に判断した方がよい。具体的には、低心拍出量の状態がこれに該当し、ショック時や不整脈が存在する場合などである。

一方、他のアルゴリズムにおいては、投与速度は大きく問題にはならない。しかし、膵は、脳と異なり複数の流入血管を有し、あまりに遅い投与速度では、色々な経路を通って膵臓へ造影剤が到達することで、造影剤が膵臓に到達するタイミングがまちまちになり、時間濃度勾配の正確さが失われる可能性がある。以上から、ある一定以上の速さの投与を心掛けたほうがよいと考えられる。

実際のところ、各アルゴリズムにおいて、どこまで投与速度を遅くすることができるかは、不明である。当施設での経験では、血管の虚脱が著しく22Gでしか造影剤投与ルートが取れない場合、3.0-3.5ml/秒まで投与速度を落として撮像したこともあるが、画像化には問題なかった。ただ、前述のような理由から得られた数値は定量性を失っている可能性があり、こういった場合、周辺臓器の比較など、慎重に血流評価を行う必要がある。

D)重症急性膵炎と造影剤

重症急性膵炎における造影CTは、発症早期の壊死予測には問題はあるものの、炎症の広がりなど重症度を評価するうえで大変有用である16。本邦のガイドライン16,17でも、造影CTは重症度評価法として有用と位置付けている。しかし、急性膵炎に対する造影剤使用について、造影剤副作用の観点から慎重な意見もある。この点に関しては、本邦における急性膵炎診療ガイドラインでは、膵炎への造影剤使用が諸外国では禁忌とされていないことや、実際に造影剤にて悪化した報告が皆無に近いことを指摘し、造影剤使用による副作用に注意を払う必要があるものの、造影CTの有用性を認めている。

Perfusion CTは、こうした議論を踏まえたうえで、大変魅力的な特徴を有するといえる。なぜならば、Perfusion CTは、造影剤の使用量が通常のDynamicCTの半分以下であり、造影剤のリスクが減少できる可能性があるからである。こういった理由から、多臓器不全を合併した重症膵炎症例におけるCT撮像では一定量以上の輸液を行ったうえで、造影剤使用をPerfusion Studyのみとする施設もある。

4.多相化とPerfusion CT

Perfusion CTによる多相化には、幾つかの不明な点が残っている。たとえば、多相化というけれども、Perfusion 評価のために必要な最低限の相の数や各相の時間間隔、全体としての撮像時間は不明であり、文献的にもばらついている。(表1)この問題は、被ばく線量を極力減らそうという動きと相まって、大変重要な問題である。どこまで相数を減らすことができるのか、そうしてModifyされた条件で作成されたPerfusion画像は、臨床応用に耐えうる画像なのかは今後の検討課題であり、発表や報告が期待される。

表1 過去の論文におけるプロトコール一覧

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5.撮像における工夫とプロトコール例

膵Perfusion CTにて定量性を追求する場合、体動やスライス厚に起因する、またはピクセル分解能に起因するパーシャルボリュームの影響や、解析時の血管選択の影響が大きく、定量性を追求することに限界があるので、そこまで造影剤の投与速度や量を厳密に行う必要はない可能性がある。以上のような観点から、過去の報告でも4ml/秒あるいは5ml/秒で、10秒間投与と固定した造影剤投与プロトコールによる報告も少なくない。(図1)また、多くの施設では、生理的食塩水による後押し(20ml-40ml)を行っている。膵癌などの腫瘍性病変への応用では、Perfusion Studyに引き続いて、60-100mlの造影剤を追加することで、3D-Angiographyを作成するなど工夫をしている施設もある。

以下に、小生たちのプロトコール例を示す18(図1)。より良いプロトコールの作成に向けた叩き台として、ご参考にしていただければ幸いである。また、昨今の撮像技術の進歩は著しい。そこで、もし可能であれば、今後、各機種や施設ごとの最新のプロトコール例を示し、より活発な議論につながればよいと愚考する次第である。

図1 Toshiba Aquillion64 使用例

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