膵Perfusion CTとは

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7.臨床的な有用性に関する知見

1.急性膵炎

Perfusion CTのヒト重症急性膵炎への応用は、Bizeらにより、2006年初めて報告された。Bizeらは、入院24時間以内の61人の急性膵炎患者を対象に、BalthazarCTGradeに従い重症例(8人)と軽症例(53人)にわけ、血流速度をPerfusion CT(Maximum Slope法)で測定したところ、重症例では膵血流は平均24.8ml/100ml/minであり、一方、軽症例では平均50.5 ml/100ml/minと、重症例では有意な血流低下(P<0.01)を認めた。この結果は大変興味深い結果であったが、発症からの時間が不明であり、また、実際の予後との関係を明らかにしたものではなかった。

Bizeらに僅かに後塵を拝したが、筆者ら30は重症急性膵炎へのPerfusion CTの応用の有用性について報告した。(辻抄録)我々は重症急性膵炎(APACHEIIスコア6点以上)の発症3日以内、30例を対象に、Perfusion CT(Deconvolution法)を用い、膵実質に虚血性領域を認めた場合、後に同部が高率(感度・特異;100%および95.3%)に壊死し、予後不良であることを報告した。

Takedaらも(武田抄録)、Perfusion CT(Maximum Slope法)を重症急性膵炎患者に用い、Bizeらと同様に、重症急性膵炎では、健常成人や軽症膵炎と比べ血流低下が生じることを報告した。Perfusion CTの重症急性膵炎における有用性は、認知されつつあり、第一回膵Perfusion CT画像研究会では、市中病院での経験も報告された。(塩川抄録

2.慢性膵炎

現在、慢性膵炎への評価法として、適切なものはない。セクレチンが使用できなくなり、本邦の慢性膵炎の診断は簡単ではなくなった。もし、Perfusion CTによって、何らかの膵機能異常の診断ができるのであれば、慢性膵炎臨床にとって大変大きな助けになると考えられる。実際に、Tsushimaらは、Perfusion CT(Maximum Slope法)を用い、膵血流が加齢性の変化に伴い低下することを示した。Bali MAらによると、膵外分泌刺激に伴い、PBF(Perfusion MRI、One compartment modelおよびTofts analysis)(CTとMRIの造影剤動態や、力学的前提条件の違いがあり、その精度はさらなる検証を要する。)は上昇した。このように慢性膵炎におけるPerfusion CT使用の目的は、急性膵炎における膵虚血/壊死のようなDamage診断ではなく、むしろViabilityの評価である。こういったperfusionの利用の仕方は、一時期、膵移植の成否診断に膵Perfusion シンチグラフィーが用いられていたことに通じ、実際にMilesらにより移植膵や糖尿病患者への応用の報告もある。(Br J Radiol. 1995 May;68(809):471-5.)

最近の全国学会でも、膵血流と慢性膵炎との関係についての精力的な検討が報告されている。膵Perfusion CT検討会でも、慢性膵炎へPerfusion CTの応用に関する報告がなされることを楽しみにしている。

3.膵癌

膵悪性腫瘍へのPerfusion CTの応用は、主に2つの方向から始まっている。一つは、膵癌の質的診断、もう一つは、治療反応予測出る。

膵癌への応用は、Milesらによるもの(Maximum slope法)が最初であり、Abeら(Deconvolution法)、武田ら、Xuら、Kandelらも膵癌へのPerfusion CTの応用を報告している。これらの報告から、膵癌は確かに乏血性の腫瘍であるが、まったく血流のない腫瘍ではなく、むしろ膵腫瘍内の血流は不均一であった。第一回膵perfusion CT画像研究会でも、同様の報告が相次いだ。(遠藤抄録)(鳥井抄録

Sahaniらは、Perfusion CTを膵癌に応用し、抗VEGF抗体治療前後で腫瘍部血流が変化することを単例であるが報告した。Parkらは、30例の遠隔転移を伴わない、病理学的にAdenocarcinomaと診断された局所進行膵癌患者を対象に、Perfusion CT(Patlak法)を施行し膵血流を評価することで、放射線化学療法への反応が予測できる(感度75%、特異度90.0%)と報告した。Parkらによると、Responder群は、Non-responder群と比べ、約2倍-3倍、有意に腫瘍血流速度が速かった。

こういった膵癌の血流の意味や、不均一性が臨床的にどのような意味があるのか、Perfusion CTによる治療効果予測が現行の膵癌治療の在り様を変えうるほどのものか、今後の報告が待たれる。

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4.膵管内乳頭粘液性腺癌(Intraductal Papillary Mucinous Carcinoma;IPMC)

Perfusion CTをIPMCに応用した報告は、臨床的な必要性と比べ圧倒的に乏しい。対象が小さいことから、現行の64列CTで撮像可能なIPMC症例は限られる可能性があるが、256-320列CTの導入によって小さな病変のPerfusionも評価できる時代が来ると考えられ、今後の展開が期待される。(八隅抄録

5.膵内分泌腫瘍

膵内分泌腫瘍へのPerfusion CTの応用は、Milesらや、d’Assigniesらによって報告されている。d’Assigniesらは、膵内分泌腫瘍へ、Perfusion CT(one compartment model)を応用し、WHOの病理学的分類との比較を行った。それによると、benign tumor群(WHO 1)は、indeterminate prognosis群(WHO 2)や、well-differentiated carcinoma群(WHO 3)と比べ、Perfusion CTにより測定された腫瘍実質血流速度は有意に早く(p=0.02)、その他の病理学的診断結果とも有意な関係を有することが明らかになった。

第一回膵Perfusion画像研究会では、遠藤らによって報告され(遠藤抄録)、今後、膵内分泌腫瘍の臨床応用にどのように関与していくか、興味深い。

6.自己免疫性膵炎

自己免疫性膵炎は、時に膵癌との鑑別が困難である。自己免疫性膵炎の国際診断基準のコンセンサスは、本年まとめられてが、ここでも如何に膵癌との鑑別を進めるかで大変な議論となった。自己免疫性膵炎と膵癌の鑑別法の確立は、大変重要な問題であり、早急に対策を講じる必要が求められている。こういった観点から、第一回膵Perfusion画像研究会にて、廣田らにより報告された自己免疫性膵炎の血流動態を明らかにする試みは、重要な意味を持ち、今後の発展が期待される。(廣田抄録